2007年04月27日
 ■  誠意を伝える改まった服装

 友人が東京のあるデパートでお菓子の買い物をした。福岡では売っていない、おしゃれに包装された洋菓子は、東京みやげに最適だ。友人は、男性店員に「これを二つ、あれを一つ…」と注文した。男性店員が丁寧に包装をしている間に女性店員が電卓で計算し、七千いくらかの値段を告げた。男性店員がレジに打ち込みながら計算をしたら九千円を超える金額になっていた。最初が計算間違いだったのか…と友人は、男性店員に言われたとおりの金額を支払った。
 雨が降り出しそうだったこともあって、宿泊しているホテルまでタクシーを使った。車の中で友人はお菓子の買い忘れがないか確認していた。「だれだれさんに、これ」「○○さんには、これ」と。そして、やはり計算が間違っていることに気がついた。500円のお菓子4つが1,000円のお菓子として計算されていたのだ。ホテルに着いたとき、雨は本降りになっていた。これからデパートに戻るのは面倒。しかし、明日は福岡に戻る。


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 レシートで再確認し、お店に電話をかけた。旅行中であるからと差額は送ってもらうつもりだった。電話を終えて友人が言った。接客をした男性店員は、すぐに間違いに気づき、これからホテルにお金を届けに来る、ホテルに着いたら電話をするから携帯電話の番号を教えてほしいと何度も詫びた。「お手数だから送っていただいてかまわない」と友人は言ったが、「ホテルにいらっしゃるのであれば、お持ちいたします」と繰り返したという。丁寧な対応をするのだと見直した。
ところが、なかなか電話が鳴らない。私たちは、バスか電車でやって来ているのね、と話していた。急いでやってくればいいのに…。しばらくたって彼はやって来た。友人だけロビーに降りていった。なぜ、やって来るのが遅かったのか。彼は制服を着替え、スーツを着用、ネクタイを締めて現れた。お詫びのお菓子を持参し、不手際を深く詫びたという。
 間違いは犯さないのがいいに決まっている。しかし、一度も間違いを犯さないことはあり得ない。間違いを犯してしまったときに、どうするか。言葉や態度に加えて改まった服装が誠意を代弁することもあるのだ。以前から、この店のファンであったが「いい従業員が働いているし、教育もしっかりしているのね」と、この出来事以来、ますますファンになった。

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 ■  お客様の気持ち、本気で分かりたいと思っている?

 「相手の立場で」。サービス業に限らず、よく耳にする言葉であるが、それはそれだけ、相手の立場を理解することが難しいことを示している。
 ホテルの朝食にお粥を頼むことがある。しかし、お店の人は、このレンゲでお粥を食べたことがあるのだろうか? 上等なレンゲかもしれないが、底が厚く口に入れにくい。上品に食べたい気持ちとは逆に、口を大きく開かなければならない。
 座席数の多いファミリーレストランなどに見られるが、食事を取っているすぐ側、客から見えるワゴンに食べた後の皿やグラス、食べ残しが置いてある店。いちいちお皿を引くたびに洗い場まで運んで片付けるのは大変であろう。非効率でもある。しかし、食べ残しを見たり、食べ残しをまとめたりする音が聞こえた途端、どんな料理も台無しになるとは思わないのだろうか。客の気持ちを理解しているとは思えない。せめて、食べ残しが見えない工夫をしてほしいと思うのだ。
 「お客様の立場になろう」というかけ声だけでは決して「お客様の立場にはなれない」。他の店で自分が客となったときの経験などをヒントに想像力を働かせ、一生懸命考えないとお客様の気持ちは分からない。漠然と仕事をしていては、決して相手の気持ちも立場も理解できない。


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 腰を痛め、整形外科に腰の牽引に通った時期がある。たまたま、そこにOLから転身し、看護師になった教え子が働いていた。彼女は牽引が終わると「先生、終わったよ。起こすからね」と、いつも身体を起こすのを手伝ってくれた。そうしてくれる看護師さんは彼女だけだった。「ありがとう。でも、あなただけよ。身体を起こすのを手伝ってくれるのは」。そう言うと、彼女は照れくさそうに答えた。「実は、母が半年前に先生と同じように牽引に来てたんですけれど、何もしなかったんですね。そしたら、何のためにあなたがいるのって怒られちゃって…。腰を痛めている人が、この狭いベッドで身体を起こすのがどんなに大変かが分からないようでは看護師失格だと。それから私、患者さんにお手伝いすることいっぱいあるんじゃないかと考えるようになったんです。いろいろあるんですよ…」。実の母親であるから遠慮せずに感じたことを教えてくれたのだが、それをそれだけに終わらせず、自分がすべきことを一生懸命に考えた彼女をとても頼もしく思った。自信に満ちた彼女の笑顔。いい看護師さんになったね。夢を追いかけてよかったね。


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2007年04月10日
 ■  天性のサービスマインド

ある年、職場の送別会の幹事長になった。
参加者300名ほど。定年退職者の中には名誉教授の称号を受ける功績ある教員が数名。例年以上に不手際なく会を運ばなければならなかった。こんな年に幹事長になるとは運が悪い…。
送別会の会場はホテル日航福岡。営業部、宴会サービス部と数度の打ち合わせと料理の試食を済ませて当日を迎えた。私たち6名の幹事は、開始時刻の2時間前にホテルに入った。サービスの責任者と最後の打ち合わせを行うと、彼は「お任せください。時間までコーヒーでもお飲みになってお待ちください」と、私たちの心配をかき消すようにニコッと微笑んだ。
しかし、よく動く。ホワイエでコーヒーを飲みながら責任者の彼を見ていると受付の背後のカーテンの左右の長さ、受付テーブルにかけた白布の垂れ下がりの長さをチェック、会場の案内板、館内電話まで拭いている。掃除が行き届いていないはずはないのだが、彼は指紋ひとつ残さないように入念に磨いている。宴会場では、ひとつひとつのテーブルを念入りに見て回り床に落ちていた小さな葉を見つけ、そっと拾っていた。


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定刻。会が始まった。華やかに送別の宴は進行していく。料理はテーブルで取り分けるスタイルのフレンチ。シェフ自慢の料理が次々に運ばれてくる。しかし、私たち幹事は、飲み物は不足していないか、退職者たちのあいさつの時間は…いろいろなことが気にかかり食事どころではなかった。すると彼は、私たちのテーブルには、食べやすいように一人一人のお皿に料理を盛り付けて持ってきてくれた。「幹事さんが楽しまないと会は成功しませんよ」。

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彼をリーダーとするスタッフたちの細かな気配りのおかげで送別会は滞りなく終わった。退職者たちからも参加者からも「今日はありがとう。お疲れ様」と声をかけてもらった。ほっとした。
参加者を見送り、彼に礼を述べて帰ろうとしたちょうどそのとき。幹事の一人が、使った胸花を箱に入れ、その箱を縦にして紙袋に入れようとした。彼が「あっ」と声をあげた。「胸花がぐちゃぐちゃになってしまいますね。お待ちください。袋をお持ちいたします」。私たちの返事を待たずに彼は小走りに、引き出物などを入れる底の広い紙袋を持ってきてくれた。彼は気が付いたことをしないではいられないのだ。自分が気付いた細かなことを面倒だと思わずに自分でするのだ。彼に任せれば大丈夫と彼を信頼している客が大勢いるに違いない。


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2007年04月05日
 ■  ぬくもりが伝わる自筆メッセージ

いろいろなお店からダイレクト・メールが届く。デパートや洋服、靴、化粧品のお店から。
新製品、バーゲン、店舗改装の案内…。
その封筒やハガキの中に、店員さんのひとことが添えられていることがある。「浅岡さまがお好きなラインのスーツが入荷しております。お時間がおありのときに、ぜひ、お立ち寄りくださいませ」「先日は、お買い求めくださいまして、ありがとうございました。寒くなってまいりました。そろそろ、お召しいただけます。いろいろなシーンで素敵に着こなしてくださいませ」などと。
 先日、JASのバースデ-割引で飛行機に乗った。仕事を終えての最終便。一眠りし、着陸体制を知らせるアナウンスで目を覚ましたら、胸の上にカードが置いてあった。見ると、「お誕生日、おめでとうございます。ステキな年になりますように。


323便、高度39000フィート、速度770Km/h」と書かれていた。思いがけないサプライズ。
思いがけないプレゼント。機内サービスで忙しいだろうに、ひとりの客室乗務員が、心を込めて書いてくれたことを感じる文面に、ほわんとうれしい気持ちになった。
見知らぬ人からもらった1枚のカード。うれしくなってバッグにしまった。
1週間後、再び、バースデ-割引を利用した。機内サービスが終わったころ、人なつこい笑みをたたえた一人の客室乗務員が私の席の前に立った。「お誕生日、おめでとうございます。本日のご搭乗、ありがとうございます」。少々照れくさく、「ありがとうございます」とお礼を述べてカードを受け取ると、銀色の「HAPPY BIRTHDAY」、ペパーミントグリーンのハートが3つ、そして、「素敵な1年となりますように…」と書かれていた。
若いチャーミングな客室乗務員が工夫をこらして、カードを作ってくれた姿が目に浮かんだ。自筆ならではのユニークさ。自筆で文字を書くことが少なくなった今だからこそ余計に、温かさが伝わり思い出に残るフライトとなった。     

購入した洋服や靴、バッグなどを配送してもらうことがある。送られてきた箱を開けたとき、名店と呼ばれる店は、必ず、店員さんの自筆のメッセージが入っている。
そして、洋服や靴、バッグはとても丁寧に包まれている。
丁寧な包みとメッセージカードに、商品に対する愛情と客を大切に思う気持ちが感じ取れる。接客中の言動や態度はとても大切だけれども、「このお店、さすがだな」「あの店員さん、よかったな」という印象は、このように商品を購入した後に続く店員さんの行為から作られることも多い。


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