2008年01月18日
 ■  より良い人間関係を築くためのヒント ~4~

大学で「社会心理学」の授業を担当しています。社会心理学は「人間の社会的行動」、つまり「人間が社会生活の中で、お互いに影響を与えながら、どのように行動するのか」を明らかにします。そして、そのテーマには「他者をより良く理解し、自分を適切に表現し、相互理解を深め、より良い関係を築くこと」に、いかに貢献できるか、があります。

このシリーズでは、不定期ですが「より良い人間関係を築くためのヒント」を記します。

~4~ わたくしたちは相手をどのように認識するのか?

わたくしたちが、相手をどのように認識し、どのような印象を持つのか、という問題は、社会心理学では「対人認知」「印象形成」というテーマで取り上げます。わたくしたちは、相手がどのような人であるのかを「主観で」認識することで、相手の取る言動の意味を考えたり、相手の今後の言動を予測したりすることができ、それによって自分が取るべき言動を決めることが可能となります。

Schneider らは、次のようなプロセスを経て対人認知、印象形成が行われると示しています。

  • 注意:相手の存在に気づくこと
  • 速写判断:カテゴリー化された外観や行動から直感的に、あるいはきわめてステレオタイプ化された判断をすること
  • 帰属:相手がなぜ、そのような言動を取ったのかを知ろうとすること
  • 特性推論:帰属の結果、ある特性Aを持っている人は、他の特性Bや特性Cも持っているだろう(あるいは持っていないだろう)と推測すること
  • 印象形成:その人が持っている特性から全体的な印象を作り上げること
  • 将来の行動の予測:その人が将来、ある特定の状況において、どのような行動を取るかについて予測すること

このように相手に注意を向けて、相手の将来の行動を予測するまでのプロセスを経るのは、相手にずっと「注意や関心」を向けている場合に限られます。わたくしたちは、相手に対して自らの目標に関連した側面にしか注意や関心を持たず、目標が達成されれば相手への注意や関心はすぐに消えてしまい、このプロセスは途中で停止してしまいます。

電車の中で、お年寄りが乗車したときに「席を譲ろう」とわたくしたちが考えるのは、「注意」「速写判断」を行うからです。そして、通常は、これ以上、そのお年寄りを観察して、この人はどういう人だろう・・・ということを考えることはありません。

でも、そのお年寄りが「ご親切に、どうもありがとうございます」などと丁寧に声をかけてくれ、頭も少し下げたような場合は、自分が先に電車を降りるときには、自分もそのお年よりも会釈をしあうこともありますよね。相手の「将来の行動の予測」をして自らの言動を決定しているのですね。


Schneider, D. J., Hastorf, A. H. & Ellsworth, P. C., 1979, Person perception 2nd ed., Cambridge, M. A.: Addison-Wesley.
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2008年01月04日
 ■  より良い人間関係を築くためのヒント ~3~

大学で「社会心理学」の授業を担当しています。社会心理学は「人間の社会的行動」、つまり「人間が社会生活の中で、お互いに影響を与えながら、どのように行動するのか」を明らかにします。そして、そのテーマには「他者をより良く理解し、自分を適切に表現し、相互理解を深め、より良い関係を築くこと」に、いかに貢献できるか、があります。

このシリーズでは、不定期ですが「より良い人間関係を築くためのヒント」を記します。

~3~ 自分の優しい気持ちを表現して、相手に伝える。

あるとき、バスの中で、このような光景を目にしました。

70歳ぐらいの女性がバスに乗り込んできました。女性は車内、中ほどの手すりにつかまり、前を向いています。すると、すぐに、その女性に気づいた男子高校生が席を立って前に進みました。

「さわやかな高校生がいるものだなあ」とほほえましく思いました。しかし、その高校生の席は女性の少し後ろ。女性は席を譲ってくれたことに全く気がつきません。高校生は照れくさかったのでしょう。何も言葉をかけなかったのです。そのうち、次の停留所にバスが着き、乗ってきた男性が、その席に座ってしまいました。
 「あれあれ・・・。」

結果的には、その女性の横に座っていた男性が気づき、その女性は座ることができました。けれども・・・。


このときから、思いやりや優しい気持ちは適切に表現して、相手に伝えることが大切だと思うようになりました。後方にいた私やだれかが「席を譲ってくれていますよ」と大きな声を出したり、次の停留所までが遠かったりすれば、その女性も気づいたのかもしれませんが、現代はそのような環境ではありませんよね。

コンビニエンスストアの店長をしている知人が言います。
「高校生のアルバイトの採用面接をするとき、短時間で判断することがとても難しい。よく言えば、ありのままで飾らない。少しズボンを下ろして、靴のかかとを踏み潰したまま、タメ口で面接を受けるため、きちんと働いてくれるのかどうか分からない。人手不足のため、この子、大丈夫かな? と不安を感じながら採用すると、気のよい子で、まじめに働いてくれることもあるし・・・」。

第一印象が悪いと採用されないこともあるのです。残念ですが、自分の良さや人柄が、そのうち分かってもらえる・・・悠長な時代ではないのですね。良さを分かってもらえる前に、つきあいが終わってしまう恐れもあるのです。

せっかく自分が持っている優しい気持ちや意欲は適切に「表現」し、相手に「伝えて」こそ、意味を持つのだと思います。「~2~」で書いたエチケットという知識やよいマナーは、優しい気持ちの表現方法、伝達方法であるともいえます。この点からもエチケットを得て、よいマナーを実践することの大切さをご理解いただけるのではないでしょうか。

昨日の電車の中での出来事です。

私の隣の座席が空いているところに、乗ってきた年配の男性が奥様に「ここに座りなさい」。私は、ご主人に席を譲ろうと「どうぞ」と立ちました。ところが、ご主人は、私の肩を軽くたたき「ありがとう。でも、大丈夫ですよ。どうぞ、おかけください」。奥様も「恐れ入ります。主人は元気ですから・・・」。

ご主人は80歳を超えていると思われましたが、背筋がピンと伸びています。我先に乗り込んで、どかっと座りゲームに興じたり、携帯電話を操作したりする若者と比べると、とてもステキな男性、まさに紳士・・・でした。


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